過去の書評:村上春樹/3作品



何を隠そう、ぼくは生粋の「ハルキスト」である。
高校時代、ノルウェイの森でヤラれてから、短編長編エッセイ評論翻訳絵本に至るまで、村上春樹の文章という文章を偏執的に読み漁り、しかも、普段再読をほとんどしないにも関わらず、氏の作品だけは何度も読み返しもした。


「面白い」を超えた何かを持つ、唯一無二の作家だと思っている。


海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈下〉

海辺のカフカ〈下〉

★★★★☆→待ちに待った長編小説
久しぶりに出た長編大作。

発売までに本の内容をまったく明かさないという独特の宣伝戦略により、発売前のファンの熱気にはすごいものがありました。

で、勿論飛ぶように売れたわけですが、一連の状況を見ていると、すでに村上春樹は単なる「有名作家」を超えたある種特別なステージに位置する作家になったんだなー、と少し複雑な気持ちになりました。海外でも売れてるし、マジでノーベル文学賞も夢ではないんでしょうね。

さて、内容ですが、村上春樹は、大家になると同時にシンプルさを失っていってるような気がしますね。
ストーリーを「巨大迷路」に例えると、昔の作品は、 空を飛んで迷路の上をふわふわ漂いながらしっかりと物語の行く末を視界にとらえている感じでしたが、徐々に地に降り立って複雑な道筋を辿るようになり、今では地に潜り、時折地表に顔を出しては行き場所を探して彷徨っているような印象を受けます。

個人的にはシンプルな方が好きなのですが、最近のものにも独特の雰囲気が漂っていて、これはこれで読み応え十分です。

主人公の少年田村カフカ君と、猫と話す老人ナカタさんの物語がそれぞれ独立していながらも交差しながら進んでいく展開は、名作「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を彷彿させますが、その生み出す文章世界はまったく対照的なものです。

ファンタジー溢れた「世界の終わり〜」と、奇妙なリアルさを纏った本作。
その違いは、 作家の創作能力の幅広さなのか、はたまた・・・
両方読み比べて、時間の流れがこの大作家に与えた影響を想像してみるのも、一つの楽しみ方ではないでしょうか?

(2003/9/26)



世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

★★★★★→村上作品の金字塔。
とってもファンタジックな長編小説。
一つの作品の中で「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という2つのまったくテイストの違う物語が、一章ごとに交互に展開します。

幻想的なファンタジー「世界の終わり」と、スリリングなアクション大作といった感じの「ハードボイルド・ワンダーランド」。それぞれまったく異なる、しかし映画のように視覚的な物語の連続は、一時たりとも読者を飽きさせません。

一言で言います。
めっちゃくちゃ面白いです。
結論から言えば、絶対買い!です。

特に、近作に見られるような抽象的破綻も見られず、きちんと辻褄を合わせて終わっているところが感嘆ものです。
多くの小説好きのMY BESTに輝くこの超名作、まだ読んでない人は書店へGO!(なんだかなあ・・・)

ところで、この作品中に出てくる「やみくろ」って、ぼく的にはトトロに出てくる「まっくろくろすけ」のイメージです。どうでもいいことだけど。

(2003/9/25)



ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

★★★★★→ぼくの青春時代に絶大な影響を与えてくれた作品
説明不要の定番作品です。
発売当時は上巻が赤、下巻が緑というクリスマスカラーの装幀で出版され、随分話題になりました。

ぼくが初めてこの作品を読んだのは、高校1・2年生の時でした。
それから12、3年間、ずっと揺るがぬMy Bestであり続けています。もう20回以上は読んだでしょうか。

ビートルズの名曲「NORWEGIAN WOOD」のタイトルを持つ本作は、トータルで300万部ほど売れたと聞きます。
勿論この冊数は、いわゆるベストセラーと言われるレベルをも大きく脱する非常識な売れ方であり、この数字からも、当時世の中を席巻した「ノルウェイの森」ブームがどれだけすごかったか窺い知ることができます。
あのブームは、最近ではちょっと見ないような盛り上がり方でした。

ブームの裏には、無論マスコミ等の影響も大きかったのですが、何よりこの小説の持つ「懐の深さ」があったように思います。青春と恋愛の持つある種普遍的なテーマに対して、本を手に取った人々が自身のバックグラウンドをそれぞれに重ね合わせ、解釈を自由に膨らませ、思うまま「コトバ」の海を心地よく泳ぐ、そんな愉楽的な読書体験をより多くの読者に与えることができる数少ない作品だったわけです。

ふとページを捲り、適当なセンテンスをほんの少し読むだけで、不思議に心が落ち着くような中毒性を持った小説です。

本作は紛れもない恋愛小説であり、同時に破壊的性質を孕んだ青春小説でもあります。高校生・大学生であった時代にこの本に出会えて本当に良かった、更に年齢を重ねた今、心からそう思います。

まだ読んだことのない人は、是非。(特に若い人!)

(2003/9/25)



                                          • -

++ from a.s
++ get slow life,
++ and smile.

                                          • -