過去の書評:スティーブン・キング/7作品



我ながら本の虫だとは思うが、実は20代半ばまでスティーブン・キング作品をほとんど読んだことがなかった。
いつも映画で見るだけ。


いざ読んでみたら、一気にハマった。
売れてる理由が理解できました。


キングさん、今まで読まず嫌いでごめんなさい。



痩せゆく男 (文春文庫)

痩せゆく男 (文春文庫)

★★★☆☆→キング別名義の作品
この本、ちょっと面白い逸話のある本で、出版された時は「リチャード・バックマン」名義でした。後にその謎の作家の正体はキングだと分かるのですが、その理由は、特定出版社との契約で出版点数に限りのあったキングが、苦し紛れに偽名を使って書いたそうです。

文春文庫の翻訳版表紙にも、「リチャード・バックマン 実は スティーブン・キング」とあるくらいで、ぼくはそれに興味を引かれて購入しました。これも一種のジャケ買いとでも言うのでしょうか。

ジャケ買いしたにも関わらず、とても面白く気持ち悪い作品で、非常に満足できました。
ストーリーは、肥満に悩む弁護士が、とある事件をきっかけに呪いをかけられ、それからは何をしても急激に痩せ細っていくようになり、何とか呪いを解こうと奔走する、といったものです。

避けることもできず、体重計の数字が落ちていく緊迫感は、キングならではのものですし、間間に挟まれる情け容赦ない悲劇も、読者の心情を煽るに十分な効果を発揮しています。

ただ、後半クライマックスへ至る流れには若干強引なところがあり、この辺りは偽名を使っていることに対する余裕かな、などと深読みをしてしまいました。

(2003/8/16)



ミザリー (文春文庫)

ミザリー (文春文庫)

★★★★☆→怖いです。充実の内容
最近、バックトゥベーシックな気分なので、キングなどを購入してみました。
超メジャー作品「ミザリー」。映画化もされているので、題名くらいは皆さんご存じでしょう。

躁鬱病患者のキレっぷりと、実際に彼女に「飼われて」しまうベストセラー作家の恐怖感の描写が圧巻です。さすが。

個人的には、斧で切られるシーンと、鬱状態に入った女が過食症状に囚われるシーンが脈拍倍増モノでした。怖かった。

分厚い情景描写の波が、読む側に息をつく暇も与えてくれません。

さすがキング、ですね。
外しません。
ドキドキしたい時には、かなりオススメです。

(2003/9/1)



グリーン・マイル

グリーン・マイル

★★★★★→ただただ素晴らしい作品
映画にもなり、大ヒットしたプリズン・ノベル。
ぼくは映画も見ておらず、作品自体にも特に興味もなかったのですが、ディケンズの出版形式を真似たという全6冊の分冊方式が面白くて、6冊を一気に購入。

キングお得意のホラーではなく、どちらかというとヒューマン・ドラマの色合いが濃い作品です。
粗筋は、ここで書くのは止めておきましょう。
と言うのも、細かく張り巡らされた伏線と、いちいち感服させられるイベントを、「粗筋」というシンプルな形で表現する自信がないからです。

死刑囚舎房を舞台に繰り広げられる幾つかのエピソード---静かで、淡々としていて、時に切なく、時にハートウォーミングで、そして悲しい---は、読み手の心を間断なく揺さぶり続けます。

複雑に絡まりあった糸が一気に収束するようなラスト、不思議に暖かい読後感。
文章のマジックを存分に堪能させてもらいました。

全体として淡々と落ち着いたトーン、静謐な筆致、適度に細かい描写、どれをとっても作家スティーブン・キングの筆力を思い知らされる作品です。

「感動」と「感心」を同時に与えてくれるこの名作、是非ご一読あれ。

(2003/11/3)



ペット・セマタリー(上) (文春文庫)

ペット・セマタリー(上) (文春文庫)

★★★☆☆→読み手にプレッシャーを与えるような恐怖
キングの代表作の一つとも言えるホラー小説。
「ペット・セメタリー」という題名で映画化もされています(見てないけど)。

100%ネタバレの粗筋としては・・・

      • とある動物霊園の奥には、禁忌とされている悪しき場所があり、そこは死んだ生き物を蘇らせる力を持っている。子供の愛猫が死んだ時、子供を悲しませたくない一心で、主人公はその場所へ猫を埋めに行く。翌日戻ってきた猫は、しかしどこか以前とは違っていた。ある日、最愛の息子が不慮の事故で死んでしまう。嘆き悲しむ主人公の瞳は、不穏な色彩に覆われ・・・ ---

ってな感じです。

何だか、イヤな感じ、しませんか?
そう、この小説は単なるホラーではなく、タブー、いわゆる自然の摂理を犯すことに対する読者の心理的抑圧につけこんでくる小説なのです。

背表紙に書いてある「あまりの恐ろしさに出版を見合わせられそうになった」というのはちょっと大袈裟だとしても、読んでいて居心地の悪さと言うか気持ち悪さがまとわりついてきます。
物語としては、勧善懲悪の精神からは程遠い悲惨なものなので、そういうのが嫌いな人は読まない方が良いかも、です。

勿論、優れたホラー小説であることには違いありません。
特に、「動物霊園」の奥に進む部分での情景描写は、まるで映像が浮かんできそうなくらい不気味で美しく(実際映画でも綺麗らしい)、帰ってきた猫が「少し違っている」様子などは、読者の想像力を強く煽ります。

この頃のキングの小説は、物語の端々にオカルト要素が散りばめられていて、ストーリー構成上やっかいな物事(矛盾とか)をそのオカルト要素で解決している部分が目立ちます。この辺りは、好みの分かれるところかも。

ちなみに、何故小説は「セマタリー」なのかというと、小説の中で子供達が作った「動物霊園(Pet Cemetery)」のスペルが「Cematery」と間違っていたのをそのまま反映しているそうです。
映画のタイトルとしては分かりにくいので、正しいスペルに直したんでしょうね。

(2003/11/5)



★★★★★→これも怖い!必読の代表作
これも映画は見てないのですが、ビデオパッケージのジャック・ニコルソンのギョロ目写真が子供心に異様に怖かったのを覚えてます。あれはショッキングでした、ほんとに・・・多分、あれがトラウマになって、この年になるまでキングの作品を読まなかった&見なかったんだと思います。

さて、ようやくトラウマから開放された三十路前の秋の日。
読み始めるやいなや、止まることなく一気に読了してしまいました。
想像していたいわゆる「ホラー映画」(13日の金曜日みたいな・・・あれはスプラッタか)とは違い、意外に硬派な印象を受けたのは、キングお得意の濃密な描写のせいでしょうか。

でも、怖いです。
得体の知れないものに対する不気味さがとてもリアルに表現されていて、相変わらず読み手の恐怖心を煽るのは巧いですね。社会的には若干問題はあるものの、家族に対しては良いお父さんである主人公が、徐々に狂気に走っていくくだりにはかなーりイライラさせられました。もっとしっかりしろよ、オヤジ!!って感じです。

また、動物の形に刈り込まれた植え込みが、実際に動き出して襲ってくるシーンなどは、まるでその様子が目に浮かぶようで、表情のない単なる枝と葉の集合体であるからこそ感じる意思疎通不可能な恐怖には、きっちりやられてしまいました。
これをキューブリックが映像化したと思うと・・・うーん。DVD借りに行こうかな(笑)。

ちなみにこの作品にも後日談はありまして、キューブリックの映画を見たキングが「違ーう!」と大そうお怒りになって、1997年になって自分が製作総指揮としてテレビ版を作ったとか。そっちは余り面白くないという意見が多いようです。

やはり、餅は餅屋、でしょう。

(2003/11/11)



キャリー (新潮文庫)

キャリー (新潮文庫)

★★★★☆→大作家のデビュー作
巨匠スティーブン・キングの記念すべきデビュー作。
(1974年刊行。ぼくと同じ年です。どうでもいいか)

TK(念動)能力を持ついじめられっ子の女子高生キャリーが主人公のホラー小説です。

いじめられた少女キャリーが、そのTK能力でもって最後には悲惨な事件を起こすというストーリーなんですが、事後にその事件を振り返る記事や証言を、ストーリーの間間に挟むという実験的試み(?)が為されています。
これって、何だかとっても青臭い感じがして、キングにも若い頃があったんだな、と感慨深い思いを抱いてしまいました。

内容は、言うに及ばず、です。
異形としてのキャリーの人物描写、小道具に使われた豚の血など、良い感じで気持ち悪く、そのある種薄ら寒い「異様さ」は日本語訳においても十二分に表現されています。

ほとんどの作品が上下巻の2冊構成になっているキングの作品にしては珍しく1冊で完結している小説ですので、キングの入門編にいいかも、です。(デビュー作だしね)

巻末の解説によると、本作は、キングが教師をしていた頃、一度は失敗作としてくずかごに捨てられた作品だそうです。それを偶然奥さんが拾い読み、ダンナの尻を叩いて続きを書かせたんだそう。人間の運命って、分からないもんですねえ。

(2003/11/26)



★★★★☆→成長とは、恐怖を乗り越えること
キングの自伝的青春小説。
これは、あまりにも映画の印象が強いでしょう。
さすがのぼくも3回は見てます。

将来小説家を夢見る少年(これがキングの投影)とその仲間達の、いかにもアメリカ的な少年時代の1ページを、「死体探し」という冒険モチーフで物語化した作品です。

正直、余りにも映画のシーンが脳裏に焼きついていて、最後まで一つの小説としてクールな目で読むことができませんでした。
つまり頭では映像を再生しながら、目でディテールを追う、という奇妙な読み方を行っていたわけですが、いずれにせよ良作といえる作品でしたね。映画も原作も、どちらも各々の長所を生かしてしっかり作りこまれているな、と感じました。

小説の文字面を追いかけて限りない想像力を掻き立て、映画の各シーンではただただ素晴らしい映像に感嘆する、とまあこんな感じでしょうか。

映画に感動した人ほど、是非ご一読頂きたい作品です。
作中で、今は亡き不遇の名優リバー・フェニックスにもきっと出会えることでしょう。

(2004/1/8)



                                          • -

++ from a.s
++ get slow life,
++ and smile.

                                          • -